ヘッドライトを消しても、月明かりで同行の2人の顔がはっきり見える。
オンナ3人でカシマシクしゃべっていると、人の気配が。
「同じようなこと、やっている奴がいるよ」
男性2人。
彼らが去ったあと、私たちは笑った。
誘われたとき、なぜか「うん、行く」と即答していた。
大岳山の近くの尾根まで登り、長谷恒カップに向けて夜間走行練習する仲間と
御岳山で合流し、金比羅尾根を降りてこようというプラン。
午後3時過ぎにスタート。
下山してくる年輩のパーティから「今からどこに行くの?」とあきれた顔を向けられる。
お手軽ハイキングコースと聞いていたのは、尾根に登る九十九折り。
走れるような勾配じゃない。
歩幅を小さく、ひたすら足を前に出す。
登山口までのバスの中から、お互い、なぜ走るようになったのかという話を続けていた。
彼女とじっくり話したのは初めてだ。
尾根に上がり、大岳山経由で御岳山へラン。
途中の川沿いの道が気持ちいい。
御岳でそばを食べながら、仲間を待つというプランだったのだが、
そば屋はすでに閉まっていた。
片づけをしているおじさんに彼女が声をかける。
この店がお気に入りで、何度か来たことがあるのだそうだ。
中で待っていれば、と言ってくださったが、
すぐに来ると思っていたので、「外で待ちます」と答えた。
御獄神社の階段に座って待つ。
地元の人たちが立ち替わり話しかけてくる。
「これからどうするの?」
「金比羅尾根から帰ります」
「じゃあ、あんたたちも山岳レースに出るの?」
「私たちは出ないけど…」
そば屋のおじさんが暖かい缶紅茶を差し入れてくれた。
甘い紅茶が体を温めてくれた。
「また、そばを食べに来ないとね」と話しながら待つ。
予定より少し遅れたけれど、待ち人が現れて、出発。
3人並んでジョグで下る。
山道は木立が月明かりを遮っていた。
ヘッドライトの明かりを頼りにしたランには、
少しずつ慣れていった。
とは言っても、そんなにスピードは上げられない。
しかも3人とも高所恐怖症。
足元だけを照らしていれば気がつかないが、
ちょっと頭を左右に動かすと見えるのは谷。
日の出山のあとが長い。
「そろそろ、林道と交差するところじゃない?」
「この先だよ!」
と、何度言ったことか。
ときどき、「わっ!」とか「ぎゃあ!」とか声があがる。
段差に足を取られたり、ぬかるみに滑ったり。
それでも転倒もなく進む。
携行食はあってもそばを食べ損ねたのでお腹も空く。
いつのまにか「腹減った! 腹減った!」の大合唱。
非日常的なシチュエーションも手伝って、みんなテンションが高い。
誘ってくれた彼女が言う。
「私たちはレースに出ないから、(今年は)もうこんなコトないじゃん。
今年一番の思い出だよー」
長い長い下りが終わり、集落に出る。
そして、駅に向かって、さらにペースを上げた。